執着

住宅街の細く長い下り坂。

僕の前方で、女性が電話をしながらのんびり歩いているのが見えた。

 

他に往来がなく静かだったので、

その距離が近づくと彼女の声がすっと耳に入ってきた。

 

「本当にすいませんでした。これからは気をつけます。」

 

頭の中は、今日の作業と夕食のことでいっぱいだったのに、

その言葉が耳に入ったとたん、

この人、仕事で失敗でもしたのかなとつい思ってしまった。

 

すると、思考が中断させられた苛立ちと

盗み聞きをしているような気分にさせられた不快感、

それと、苛立ちと不快感を覚えた自分への嫌悪感がごちゃ混ぜになって、

ぼわっと心に湧いてきた。

 

さっさと追い抜こうと思った。

 

そして追い抜いた直後、こんな言葉がうしろから入ってきた。

 

「寝る前に毎日ちゃんと写真送るから。誰といるのか気になるんでしょ・・・」

 

電話の相手は男か。気持ち悪っ。恐っ。

そう思ってしまった。

 

なんておこがましいんだと思いながらも、

男性であろうその電話の相手をなんだか残念に思った。

気持ちは分からなくもないのだが。

 

人間って執着し過ぎると簡単におかしなことになるから滑稽だ。

 

執着しないということに執着し過ぎれば仙人みたいで変だし。

 

自分が信じる神でも、それに執着し過ぎるやつは、

その神を通り超してるよ、きっと。そこに神はいない。

 

八百万の神。

自然のもの全てに神が宿っているという日本の古くからの考え方が僕にはしっくりくる。

あっちにもこっちにも神がいたほうが1つに執着しなくてすむから。

 

心の中には色々なものが入っていたほうがいいのだ。

 

ちなみに、

僕はおかしなものがもっと見たいので、もっと美術に執着するつもりだ。

まだまだ入り込んでも大丈夫だろう。

 

チキンレースみたいだなとたまに思う。