風に吹かれて

昼休み、天気が良いので外で読書する事にした。

石で出来た長いベンチ。
詰めれば20人ぐらいは座れそうなそのベンチに
2人分ぐらいのスペースを空けながら、人々が座っていた。

ちょうど端が空いていた。

端から2名分ぐらい空いたところにホームレス風の老婆が座っていた。

ベンチに座ると間もなく、
ビル風と共に強烈に饐えた臭いが僕を襲ってきた。

「おうっ、すげぇ」と思わず小さな独り言。

お隣りだなと思ったが、もしかしたら僕の間違いかもと思い、移動するのも面倒だったので、我慢することにした。

すぐに次のビル風は吹いた。

お隣さんかどうかは問題じゃないんだ。
そういうことじゃない。
そんなことどうでもいい。
ここにいたら、とにかく臭くてたまらないんだ。
そう思い、立ち上がった。

30メートルほど離れた別のベンチへ移った。

そこでの風は無臭だった。
陽射しが強く暑かったので、心地良かった。

そこに座ってから10分ぐらい経った頃だろうか。

さっきの強烈な悪臭が再び鼻の中に入ってきた。

おそるおそる顔を左に向けると、先ほどの老婆がちょこんと隣りに座ってた。

何で?

いや、考えるな。

考えても無駄だ。

人の心の中なんぞ分かりっこねぇ。

それより次の風がくる前にここを離れよう。

すぐに立ち上がった。

前方を見るとさっき座った石のベンチが空いていた。
なんだかなぁと思いながらも、まだ15分ほど休み時間が残っていたので、そこに座った。

座るとすぐに風が吹いた。

脳天直撃の悪臭を乗せて。

何で?

近くに老婆はいなかった。

そしてもう一度風が吹いた。

またガツンときた。

残り香だと気が付いた。

息をとめ、次の風が吹く前に立ち上がった。




ちなみに今読んでる本は鈴木大拙の「禅」 

禅宗では日常生活のすべてが重要な修行だ。 

では。